昨年の秋、フィンランドのナーレ・フッカタイバルが史上初のグレード9Aをつけたボルダ―課題、その名は”Burden of Dreams”。敢えて日本語にすると「夢の重荷」とでもいったところかな。この”Burden of Dreams”、実はニュー・ジャーマン・シネマの旗手
ヴェルナー・ヘルツォーク監督が、彼の名作『フィツカラルド』(1982年)の製作過程を追ったドキュメンタリー映画『BURDEN OF DREAMS』の名から拝借したもの。
なんせその『フィツカラルド』、ペルーの奥地にオペラハウスを建設することが夢の主人公フィッツジェラルドが、資金作りのためにアマゾン河上流へ向かい、未開のジャングル、ゴム林を目指して原住民の手を借りながらほぼ人海戦術で蒸気船を山越えさせてしまうという途方もないことが題材。で、そんな途轍もないことを映画にしようとしていた以上、ひょっとして映画完成できないのじゃないかと危惧した監督が、その製作一部始終を他のドキュメンタリー監督に撮らせたものが『BURDEN OF DREAMS』。
手短に言うと、夢の実現のために狂気に囚われたかのような人間が映画の中にも、またその映画を撮ろうとした側にもいるということ。ヴェルナー・ヘルツォーク監督の別の作品、かつて南米のエル・ドラード(黄金郷)に取付かれ、ついにはアマゾン川を下ってしまう男たちを描いた『アギーレ/神の怒り』でも、同様な人間がテーマだ。
ナーレの”Burden of Dreams”に戻って、彼が課題成功までに費やした歳月4年。これは特別驚かされはしないが、そのトライ回数はなんと4000回‼‼もちろんボルダ―課題ですから、一回毎の手数は少ないのですが...。いやはや課題のトップに立つまでの過程、できるかどうかわからない、つながるかどうかわからない同じ動きを何百回、何千回と繰り返す過程、その間の心の葛藤、正に「夢の重荷」だったことでしょう。
別に人類史、クライミング史上初でなくてもいいのです、他人には意味のない個人史の中のことでいいのです、ちょっとした夢を持ってそれに邁進することに価値があるのではないでしょうか。
管理人2号
追記:
ラインホルト・メスナーのアイデアを基にした、シュテファン・グロヴァッツが主人公役の映画『彼方へ』もヴェルナー・ヘルツォーク監督の作品。この辺りの流れからナーレはドキュメンタリー映画『BURDEN OF DREAMS』に触れたんでしょうね。